飛行機内が寒いと感じる理由：科学的根拠と対策
飛行機に搭乗した際、多くの人が「寒い」と感じる経験をしているのではないでしょうか。ブランケットにくるまっても、上着を着込んでも、なかなか寒さが解消されないこともあります。単に「冷房が効きすぎている」というだけでなく、実は飛行機内が寒くなるのには、いくつかの科学的な理由があるのです。ここでは、その理由を詳しく解説し、飛行機内で快適に過ごすための対策も紹介します。
高度と外気温の関係：上空は極寒の世界
飛行機が飛行する高度は、通常、約1万メートル（3万3000フィート）前後です。これは、エベレスト山頂よりもはるかに高い位置であり、当然ながら、地上とは環境が大きく異なります。
この高度の外気温は、-50℃から-60℃にも達する、極寒の世界です。なぜ、これほどまでに寒いのでしょうか？その主な理由は、以下の3つです。
- 高度が上がるにつれて、気温は低下する：地上では、太陽からの熱によって地表が暖められ、その熱が空気に伝わることで、気温が上がります。しかし、高度が上がるにつれて、空気の密度が低くなり、太陽からの熱を保持する力が弱まるため、気温が低下します。
- ジェット気流の影響：飛行機は、ジェット気流と呼ばれる強い風に乗って飛行することがあります。ジェット気流は、高速で流れる冷たい空気の帯であり、周囲の気温をさらに低下させます。
- 太陽からの距離は関係ない：高度1万メートルは、確かに太陽に近づいているように思えますが、太陽と地球の距離（約1億5000万キロメートル）に比べれば、無視できるほどの差です。太陽からの距離が近くなることによる気温上昇は、ほとんどありません。
これらの理由から、飛行機が飛行する高度は、極寒の世界となっているのです。もちろん、飛行機内は、外気温の影響をそのまま受けるわけではありません。しかし、外気温が非常に低いことは、機内が寒くなる要因の一つであることは間違いありません。
機内の温度設定：低め設定の理由とは？
飛行機内の温度は、航空会社や機種、路線などによって異なりますが、一般的に20℃～25℃程度に設定されています。これは、多くの人が快適と感じる温度よりも、少し低めの設定です。なぜ、航空会社は機内温度を低めに設定しているのでしょうか？それには、いくつかの理由があります。
- 失神のリスクを減らすため(気圧変化への対応)：飛行機内は、地上よりも気圧が低く保たれています。これは、高度が高くなるにつれて、大気圧が低下するためです。気圧が低いと、体内の酸素濃度が低下し、人によっては、めまいや吐き気、失神などの症状を引き起こすことがあります。
機内温度を低めに設定することで、乗客の体温上昇を抑え、血圧の急激な変化を防ぎ、失神のリスクを減らす効果があると考えられています。
- 乗客の多様な体感温度に対応するため：飛行機には、さまざまな年齢、性別、体格、健康状態の人が搭乗します。暑がりな人もいれば、寒がりな人もいます。全ての人にとって快適な温度設定は存在しないため、航空会社は、多くの人が許容できる範囲で、やや低めの温度設定にしていると考えられます。
- 湿度を低く保つため(乾燥対策)：飛行機内は、非常に乾燥しています。これは、外気温が低く、空気に含まれる水分量が少ないこと、そして、機内の空気を循環させる際に、除湿を行っていることが主な原因です。
湿度が高いと、カビや雑菌が繁殖しやすくなり、不快感や健康被害の原因となります。そのため、航空会社は、湿度を低く保つために、温度を低めに設定していると考えられます。
これらの理由から、飛行機内の温度は、低めに設定されているのです。しかし、これは、あくまで一般的な傾向であり、航空会社や路線によっては、異なる温度設定になっている場合もあります。
気圧の変化と体感温度：寒さを感じやすい理由
飛行機内は、地上よりも気圧が低く保たれています。これは、高度が高くなるにつれて、大気圧が低下するためです。一般的に、客室内の気圧は、標高2,000～2,500メートル程度に相当する気圧に設定されています。
気圧が低いと、体感温度が低く感じられることがあります。これは、気圧が低いと、空気の密度が低くなり、体から熱が奪われやすくなるためです。また、気圧の変化は、自律神経の乱れを引き起こし、寒さを感じやすくする可能性もあります。
自律神経は、体温調節や、血圧、心拍数などをコントロールする神経です。気圧の変化によって自律神経が乱れると、体温調節機能がうまく働かなくなり、寒さを感じやすくなったり、逆に暑さを感じやすくなったりすることがあります。
これらの理由から、飛行機内では、実際の温度よりも寒く感じることがあるのです。特に、離陸時や着陸時など、気圧が大きく変化する際には、寒さを感じやすいので、注意が必要です。
飛行機内の寒さ対策：快適に過ごすための服装と持ち物
飛行機内の寒さは、ある程度避けられないものです。しかし、服装や持ち物を工夫することで、寒さを軽減し、快適に過ごすことができます。ここでは、飛行機内での寒さ対策を具体的に紹介します。これらの対策を実践することで、長時間のフライトでも、快適に過ごせるようになるでしょう。
服装のポイント：重ね着、脱ぎ着しやすい服装
飛行機内の寒さ対策として、最も効果的なのは、重ね着です。
外気温や機内の温度変化、自分の体調などに合わせて、脱ぎ着することで体温調節ができる服装が理想的です。
具体的には、
- 薄手のインナー：吸湿性・速乾性に優れた素材のものがおすすめです。汗をかいてもすぐに乾き、体温の低下を防ぎます。
- 長袖のシャツやカットソー：薄手のものと、やや厚手のものを重ね着すると、温度調節がしやすくなります。
- カーディガンやパーカー：脱ぎ着しやすい前開きのものが便利です。
- ストールやマフラー：首元を温めることで、体感温度が上がります。大判のストールは、ブランケット代わりにもなります。
- ゆったりとしたパンツやスカート：締め付けの少ない、ゆったりとした服装は、リラックス効果があり、長時間のフライトでも快適に過ごせます。
などがおすすめです。
素材は、ウールやカシミヤ、フリースなど、保温性の高いものがおすすめです。また、機内は乾燥しているので、静電気が起きにくい素材を選ぶと良いでしょう。
避けたい服装としては、
- 半袖、短パン、ミニスカートなど、肌の露出が多い服装
- 締め付けの強い服装（スキニージーンズ、タイトスカートなど）
- 化学繊維の服（静電気が起きやすい）
などがあります。
おすすめの持ち物：ブランケット、ネックピロー、着圧ソックスなど
航空会社によっては、ブランケットの貸し出しがない場合や、枚数制限がある場合があります。また、共用のブランケットに抵抗がある人もいるでしょう。
自分専用のブランケットを持参すると、より快適に過ごせます。薄手でかさばらないものがおすすめです。
また、以下の持ち物も、飛行機内での寒さ対策、快適性向上に役立ちます。
- ネックピロー：首の負担を軽減し、リラックス効果を高めます。空気で膨らませるタイプのものなら、かさばりません。
- 着圧ソックス：足のむくみを軽減し、血行を促進します。冷え対策にも効果的です。
- アイマスク：光を遮断し、睡眠の質を高めます。
- 耳栓：騒音を遮断し、リラックス効果を高めます。
- スリッパ：靴を脱いでリラックスできます。
足元の冷え対策：靴下、レッグウォーマー
足元は、特に冷えやすい場所です。足元が冷えると、全身が冷えてしまいます。厚手の靴下や、レッグウォーマーなどを着用して、足元の冷えを防ぎましょう。
靴下は、ウールやカシミヤなど、保温性の高い素材のものがおすすめです。また、締め付けの少ない、ゆったりとしたものを選ぶと、血行が悪くなるのを防ぐことができます。
レッグウォーマーは、足首から膝下までを覆うことができるので、より効果的に足元を温めることができます。
さらに、使い捨てカイロを靴の中に入れたり、足裏に貼ったりするのも効果的です。ただし、低温やけどには注意が必要です。
乾燥対策も忘れずに：マスク、保湿クリーム
飛行機内は、非常に乾燥しています。湿度が20%以下になることも珍しくありません。乾燥は、寒さを感じやすくするだけでなく、肌荒れや、喉の痛みの原因にもなります。
マスクを着用することで、喉の乾燥を防ぎ、保湿効果も期待できます。また、保湿クリームやリップクリームなどを持参して、こまめに保湿することも大切です。
さらに、水分補給も忘れずに行いましょう。乾燥した環境では、脱水症状になりやすいので、こまめに水分を摂るように心がけましょう。ただし、アルコールやカフェインを含む飲み物は、利尿作用があり、脱水症状を悪化させる可能性があるので、避けた方が良いでしょう。
これらの対策を参考に、自分に合った方法で、飛行機内の寒さと乾燥対策を行い、快適な空の旅を楽しみましょう。
まとめ：飛行機内の寒さ対策で快適な空の旅を！
飛行機内が寒いのは、高度や気圧、機内の温度設定など、さまざまな理由があることが分かりました。特に、上空は-50℃から-60℃という極寒の世界であり、機内の温度も、失神のリスクを減らすため、乗客の多様な体感温度に対応するため、そして湿度を低く保つために、低めに設定されています。また、気圧の変化も、体感温度に影響を与え、寒さを感じやすくする要因の一つです。
しかし、これらの寒さは、ある程度、避けられないものではありますが、服装や持ち物を工夫することで、大幅に軽減することができます。重ね着や脱ぎ着しやすい服装で体温調節をし、ブランケットやネックピロー、着圧ソックスなどのアイテムを活用することで、より快適に過ごすことができるでしょう。
足元の冷え対策としては、厚手の靴下やレッグウォーマー、使い捨てカイロなどが有効です。また、飛行機内は非常に乾燥しているため、マスクや保湿クリーム、こまめな水分補給などの乾燥対策も忘れずに行いましょう。
長時間のフライトは、心身ともに疲労が溜まりやすいものです。しかし、事前にしっかりと寒さ対策をしておけば、疲労を軽減し、快適な空の旅を楽しむことができます。
この記事で紹介した情報を参考に、ぜひ、あなたに合った寒さ対策を見つけて、次のフライトに備えてください。そして、快適な空の旅を満喫してください！