【基礎知識】タイ古式マッサージに国家資格はある?

セラピストを目指す際、まず気になるのが「この仕事をするのに国家資格は必要なのか?」という点です。
結論から申し上げますと、タイ古式マッサージには、日本国内における「国家資格」は存在しません。
現在流通している資格は、すべて民間団体やスクールが認定する「民間資格」となります。
日本国内では「民間資格」という扱い
タイ本国においては、タイ保健省(厚生省に相当)が管轄する国家資格として位置づけられていますが、日本の法律上では適用されません。
したがって、日本でタイ古式マッサージの資格を取得するということは、「一定の知識と技術を習得したことを証明する民間資格」を取得することを意味します。
しかし、国家資格ではないからといって価値がないわけではありません。
身体に触れる仕事である以上、解剖学や正しい手技の知識は必須であり、民間資格がプロとしての実力を測る重要な物差しとなっています。
「あん摩マッサージ指圧師」との法的な違い
日本で法的に「マッサージ」を業として行えるのは、国家資格を持つ医師または「あん摩マッサージ指圧師」のみです。
これらは「治療」を目的とした医療類似行為とみなされます。
一方、タイ古式マッサージや整体、リフレクソロジーなどは、法的には「医業類似行為」ではなく、「リラクゼーション(癒やし)」に分類されます。
そのため、広告などで「治療」「治る」といった表現を使うことは法律で禁じられています。
あくまで「健康増進」や「リフレッシュ」を目的としたサービスであることを理解しておく必要があります。
無資格でも施術は可能?資格取得のメリットとは
法律上、リラクゼーション業は無資格でも開業・就業すること自体は可能です。
しかし、未経験・無知識のままお客様の身体に触れることは、事故や怪我をさせるリスクが高く、現実的ではありません。
資格を取得することには、以下のような大きなメリットがあります。
- 信頼性の獲得: お客様に安心感を与え、指名獲得につながる。
- 就職・転職の有利さ: 即戦力として採用されやすく、資格手当などで給与が優遇される場合が多い。
- 損害賠償保険への加入: 多くの民間資格団体では、施術中の事故に対応する保険制度を用意している。
プロとして長く活躍するためには、自分を守るためにも資格取得は「必須条件に近いもの」と考えておいた方が良いでしょう。
どれを選ぶ?タイ古式マッサージの代表的な資格の種類

タイ古式マッサージの資格は数多く存在しますが、大きく分けると「本場タイのスクールが発行するもの」と「日本の協会が発行するもの」の2つがあります。
さらに、タイの流派には「バンコク式(南)」と「チェンマイ式(北)」という大きな違いがあります。
自分の目指すスタイルに合わせて選ぶことが重要です。
1. ワットポー(Wat Po):世界的に知名度No.1の総本山
バンコクにある「ワットポー寺院」は、タイ古式マッサージの総本山として世界的に有名です。
ここで学べるのは「バンコク式(南部式)」と呼ばれ、指圧による「セン」への刺激を重視した手技が特徴です。
ストレッチよりも「押す」動作が多いため、治療的な側面が強いと言われています。
「ワットポーの修了証を持っている」というだけで、世界中のセラピストに通用するほどの圧倒的なブランド力があります。
2. チェンマイ式(CCA・ITMなど):ストレッチ要素が強い北部のスタイル
タイ北部の古都チェンマイを中心に発展したスタイルで、ゆったりとしたリズムと豊富なストレッチが特徴です。
「二人でするヨガ」のイメージに近く、リラクゼーション効果が高いため、日本のサロンで主流となっているのはこちらのスタイルが多い傾向にあります。
代表的なスクールには「CCA(チェンマイ・クラシック・アート)」や「ITM」などがあり、これらのスクールの認定資格は日本でも非常に人気があります。
3. タイ政府認定校の修了証:信頼性の高い証
特定のスクール名に限らず、「タイ政府(文部省や保健省)の認定を受けたスクール」を卒業したことを証明する修了証(ディプロマ)は、高い信頼性の証となります。
カリキュラムの時間数や内容が政府の基準を満たしていることが保証されているため、就職の際にも実力の証明として役立ちます。
4. 日本国内の協会認定資格(TTMA/IBMAなど):就職に強いサポート体制
日本国内の協会が発行する資格は、日本の法律や日本人の体格に合わせた技術を学べるのがメリットです。
- TTMA(日本トラディショナルタイマッサージ協会): 老舗の協会で、就職支援や独立開業サポート、賠償責任保険などが充実しています。
- IBMA(国際ボディメンテナンス協会): タイ古式だけでなく、ヨガやストレッチの資格も取り扱っており、ボディケア全般の知識を深められます。
海外の資格は英語やタイ語での記載となりますが、国内資格は日本語で学べ、卒業後のアフターフォローが手厚いのが最大の魅力です。
タイへの留学 vs 日本のスクール?取得方法とメリット・デメリット

タイ古式マッサージの資格を取得するには、大きく分けて「本場タイへ行く」「日本のスクールに通う」「通信講座で学ぶ」の3つのルートがあります。
「かけられる時間」と「予算」、そして「どのレベルの技術を求めるか」によって最適な方法は異なります。
【タイ留学】短期間で本場の技術と空気感を学ぶ(費用・期間目安)
本場の空気を感じながら、朝から夕方までみっちりとマッサージ漬けの日々を送れるのがタイ留学の魅力です。
最大のメリットは、短期間で集中して資格が取れることです。
- 期間目安: 最短3日〜2週間程度(1週間前後のコースが一般的)
- 費用目安: 学費のみで3万円〜10万円程度(+渡航費・滞在費で10〜15万円)
- メリット: 日本よりも学費が安い。本場の文化に触れられる。
- デメリット: 日本語不可のスクールだと細かいニュアンスが伝わらない。帰国後のフォローがないため、技術を忘れてしまいがち。
【国内スクール】働きながら通えて、日本語で細かく学べる(費用・期間目安)
現在、プロを目指す人の多くが選択するのが国内の専門スクールです。
仕事を辞めずに、休日や夜間を利用して通うことができます。
日本人の骨格に合わせた施術や、接客マナーまで日本語で細かく指導してもらえるのが最大の強みです。
- 期間目安: 1ヶ月〜1年(単位制やフリータイム制が多い)
- 費用目安: 20万円〜50万円以上(カリキュラムの深さによる)
- メリット: 就職サポートが手厚い。卒業後も練習会などに参加できる。
- デメリット: タイ留学に比べると費用が高額になりがち。
【通信講座】費用は安いが技術習得は難しい?実情を解説
DVDや動画教材を見て自宅で学習し、試験レポートを提出して資格認定を受けるスタイルです。
圧倒的に安価ですが、実技を伴うマッサージにおいて、「人の体に触れる感覚(圧の強弱など)」を独学でマスターするのは非常に困難です。
- 費用目安: 3万円〜8万円程度
- 実情: 「とりあえず知識だけ入れたい」という方には向いていますが、プロのセラピストとして就職・開業するには技術力が不足する可能性が高いです。
サロンによっては、通信講座のみの資格では採用対象外となる場合もあります。
後悔しないために!資格スクールを選ぶ際の3つのチェックポイント

スクール選びに失敗すると、「卒業したのに現場で通用する技術がない」「履歴書に書ける資格じゃなかった」といった後悔に繋がりかねません。
決して安くはない学費を払うのですから、以下の3点は必ず事前に確認しましょう。
取得できる資格の種類と認知度
そのスクールを卒業すると、具体的にどのような名称の資格がもらえるのかを確認してください。
単なる「〇〇スクール修了証」よりも、「〇〇協会認定セラピスト」といった公的な響きを持つ資格の方が、就職時の履歴書では有利に働きます。
また、その資格や協会が業界内でどの程度の認知度を持っているかも重要です。
提携している店舗数が多い協会や、タイ政府認定校と提携している日本のスクールであれば、信頼性は十分と言えます。
講師の質とカリキュラム(少人数制か、相モデルか)
マッサージの技術は、微妙な力加減や身体の使い方が命です。
大人数の講義形式では、講師の手元が見えづらく、自分のフォームを修正してもらう機会が減ってしまいます。
講師1名に対して生徒2〜4名までの「少人数制」を採用しているスクールが理想的です。
また、生徒同士で施術をし合う「相モデル」形式の授業かどうかも重要です。
人形で練習するだけでは分からない、「人それぞれの筋肉の硬さ」や「押される側の感覚」を養うには、生身の人間で練習する時間が絶対に欠かせません。
卒業後のサポート(就職支援・開業支援・再受講制度)
実は最も重要なのがこの項目です。
技術は一度習っただけでは必ず忘れてしまったり、自己流の癖がついたりしてしまいます。
卒業後も無料で再受講(復習)ができる制度や、定期的な練習会が開催されているスクールを選びましょう。
また、就職希望であれば「提携サロンへの紹介制度」があるか、開業希望であれば「集客や経営のアドバイス」が受けられるかもチェックポイントです。
「卒業=さようなら」ではないスクールを選ぶことが、長くセラピストを続ける秘訣です。
資格取得後のキャリアパス!就職や独立開業にどう役立つ?

「趣味レベルで終わらせたくない」「仕事として収入を得たい」と考えている方にとって、資格は強力な武器になります。
就職活動と独立開業、それぞれのシーンで資格がどのように役立つのかを見ていきましょう。
サロン就職時の採用率や給与への影響
多くのリラクゼーションサロンでは、未経験者向けの研修を用意していますが、資格保持者は「即戦力」として採用面接で圧倒的に有利になります。
特に人気店や高級サロンでは、有資格者であることを応募条件にしている場合もあります。
また、給与面でのメリットも見逃せません。
通常の基本給に加え、毎月数千円〜数万円の「資格手当」が支給されるケースや、歩合給の還元率がアップするケースも少なくありません。
店舗での長い研修期間(その間は無給や低賃金であることも多い)を短縮・免除され、すぐにプロとしてデビューできるのも大きなメリットです。
自宅サロン開業時の「信頼の証」としての活用法
マンションの一室などで個人サロンを開業する場合、最大にハードルとなるのが「お客様からの信用」です。
看板のない個人宅に初めて入るのは、お客様にとって勇気がいることです。
そんな時、ホームページや店内に掲示された「認定証(ディプロマ)」は、「ちゃんとした技術を持ったプロのお店」であることを証明する唯一の材料となります。
無資格のサロンとの差別化になり、適正な価格設定(単価アップ)もしやすくなります。
また、資格取得時のスクールの繋がりから、集客のノウハウを得たり、同業者の相談相手が見つかったりすることも、孤独になりがちな個人オーナーには大きな支えとなります。
まとめ:自分に合ったスタイルで一生モノの技術と資格を手に入れよう

本記事では、タイ古式マッサージの資格の種類や、日本とタイでの取得方法の違いについて解説してきました。
日本国内において、タイ古式マッサージは「国家資格ではなく民間資格」ですが、プロとしてお客様からの信頼を得るためには欠かせないパスポートです。
「本場の空気を味わいたいならタイ留学」「就職サポート重視なら国内スクール」など、自分の目的とライフスタイルに合った方法を選ぶことが成功への近道です。
AIや機械化が進む現代においても、人の手による温かい癒やしは決してなくなることがありません。
身につけた技術は、あなたの人生を支える「一生モノの財産」となるはずです。
まずは気になるスクールの資料請求や体験入学(オープンキャンパス)に参加し、実際の雰囲気を感じてみてはいかがでしょうか。
最初の一歩を踏み出すことで、セラピストとしての新しい未来が動き出します。